彼女は頭が悪いから
(不快、性的、胸糞描写があります、注意してください)
大学に入って初めてできた彼女は、インカレサークルの女子大の子だった。
服装がおしゃれで化粧がうまい、頭の悪そうな女だった気がする。
飲みのコールが激しいインカレのサークルだった。オールラウンドサークルというよくわからない名前の、実態は出会いのためのサークル。
そこで、人生2回目の彼女ができた。彼女にドキドキするようなときめきは感じなかったけど、付き合えばセックスできる。
そう思ったから、付き合った。
デートには何回も行った。着せ替え人形になったり、カフェに行ったり、映画館へ友達とダブルデートへ行ったような気がする。
5回目くらいのデートで、体を重ねた。僕も彼女もお互いに初めてで、最初は僕の家だ。
ねぇ、好きだよ。
僕も好きだよ、って応える。目を瞑り、キスを待つ彼女。
少しだけ彼女の視界が閉じられたこの瞬間に、彼女の顔を見つめながら思う。
なんて、間抜けな顔なんだろう。
人を見下しちゃダメなことは分かっている。
でも、僕は悪いところをつい見つけてしまっては、人を見下す悪い性格の持ち主だった。
だからこんな時にも、見下してしまう。
上部だけの僕の好きに誤魔化されるのを、本当にバカだな、と僕は冷めた目で見る。
彼女は、僕が見下していることを知りもせずに、今から僕に最も大事な場所を明け渡すのだろう。そうすると、自らの性器がふと燃えるように滾るのを感じた。
その後は唇を重ね、愛撫をして、行為を終えた。
凄まじい万能感と、何か分からない後ろ暗い達成感と共に、僕の初体験は終わった。
その後はよく、彼女を家に呼んだ。デートに行った後は、必ず性行為をした。後ろ暗い達成感をその都度得る僕。
でもそんな日々を数ヶ月ほど送った後のとある日、彼女が僕に別れを告げた。
まさかこの僕が振られるなんて。どうして?と聞く僕。
大事にして欲しかった、という彼女。時間もお金も使ったじゃないか、と怒る僕。
そうじゃない、と泣いて去る彼女を心の中でも罵倒した。
バカ女が。僕と付き合えただけ、ありがたいと思え。なんで僕を振るんだ。
ありったけ、罵倒した。
そこから1週間も経つと、自分の欲望を僕は抑え切れなくなっていた。
だから手頃な女を捕まえるために友達と街で二人組でナンパしたり、マッチングアプリで女を捕まえてキープした。
体を重ねるよりも、行為が終わった後に来る薄暗い達成感が僕は大好きだった。親の言うことばかり聞いていたための、反動なのかもしれない。
ともかく、そうやって手頃な女を捕まえては放流して、という大学生活を送った。捕まえた女も、なぜかいつも最後は僕から離れたのが、不思議だったけど。
3年になって、就活を始めた。就活は、あまりやる気が無かった。母親は商社やメガバンクに入って欲しいと言う。
僕は、めんどくさがった。なんとなく高年収のところにESは出したが、何回かの面接で落とされた。
結局、母の希望のところは決まらなかった。
数社出したうちの不動産のベンチャー企業といえば聞こえのいい、中小企業へ内定が決まった。
僕にはふさわしくない、中小企業だ。
それを伝えに、実家に帰り母の元へ伝えに行った。
少なくとも、自分の同期に比べて自分の結果はボロボロだったと思う。
やる気もなかったし、頑張る意味も見いだせなかったからこうなったのは当然だと思った。
母の期待を裏切ったのは少し怖かったが、一人暮らしをしてから母はとても優しくなったので、大丈夫だと思っていた。
でも内定先を伝えると、母が僕のことを強く罵倒する。何のためにこの大学へ行かせたのか、何のために、産まなきゃよかった、顔向けできない、だの。
途中までは覚えているけど途中から涙が出てきて、話は聞いていなかった。涙を流す僕を見てなお、母は僕を罵倒した。
もしかしたら、それが22年生きて、初めての反抗だったかもしれない。母がまだ話しているのに、泣きながら家を出た。その時母へ、何かひどい言葉を投げかけたような気がする。
あてもなく、国道沿いの道を歩き続けた。母からかかる何十回もの電話に、出る勇気は僕にはなかった。
父と母は、東大と大妻女子大の夫婦だった。僕にあまり干渉してこない父親に、過干渉な母親。
昔から人を見下す癖があった気がする。それは、たぶん母の影響を受けたからだ。
コンビニの店員の態度が悪いと、店を出た後ヒステリックに怒る母。
だから低所得者なんだ、だから低学歴でコンビニのバイトしかできないんだ、となぜか言っていたのをなぜか思い出した。
だから僕も、自然とコンビニのバイトを見下した。
近くのコンビニでお釣りを取るときに手が触れると、バカが移る気がした。
家を走って出た後にコンビニに寄った。その時お釣りを返される時に手が触れる。やっぱり、バカが移る気がして嫌悪感をやはり無意識に抱く。
あぁ、そういえば店員に体が触れる嫌悪感は、母の影響だったんだな、と気づく。女子大の女を見下したのは、きっと母が見下していたからそれが移ったのだろう。
母は、学歴にコンプレックスがあったのだと思う。母は犯罪のニュースを見るたびに、低学歴のサルが犯罪を起こしているのだ、と語った。
ニュースを見て、学歴なんて話は全く出てきてないのにいきなりその話をするのは、多分コンプレックスで、頭の隅にそれがずっとちらついているだ。
だから僕を、そのコンプレックスを解消するための道具にした。僕の内定先だって、そうだ。
母は昔から、過度なくらい僕に期待した。
それができないと、過度なくらいに落ち込んで、僕をはたいた。
母を失望させたくなくて必死だった僕は勉強を重ねて今の大学に入ったが、大学になって母と離れたから、何をすればいいか分からなくなった。
母の期待以外に寄る辺すらない、空っぽで、何もない僕。
本当の僕は、劣等感の塊だった。空っぽなのに人を見下して、劣等感を覆い隠そうとしていただけだ。いや、空っぽだからこそ、人を見下した。
僕は、人を見下す性格を生涯辞められないと思う。僕の劣等感は、直視するのはあまりに大きい傷跡だ。だから、この先も埋まらない。
大学に入って母から離れてなお、僕は母と同じように人を見下した。僕の性格は、家を出た時から何一つ変わっちゃいない。
そんなことを、母と初めて衝突して、理解した。
僕は母から、生涯逃げられないのだと察した。この国道を逃げたら、物理的には逃げられるかもしれない。
でも、心の中に住む母から逃れることはできない。
だから母の期待に、応えようと思った。いや、応えるしか僕には道なんてないのだ。僕は、来た道を引き返すことにした。
その後は母の元へ帰り、母へ弁護士になるために法科大学院のお金を出して欲しいと語る。先ほどの暴言を謝罪した後それを語ると、母の態度は別人かのように豹変した。母は天使のように微笑んで僕に言う。
そうよね。期待してるわよ。
だから最近は社会的地位の高い、弁護士になるための勉強を始めた。それで、法科大学院に今は通っている。
相変わらず僕は低所得者や低学歴は見下してるし、土方もバイトも中小に行く奴らも愚かな奴らだと心の中で嗤う。
僕の性格の悪さも相変わらずの平常運転だ。
そういえば、今も付き合っている彼女がいるけれど、この女に僕のこの気持ちを理解してもらおうとは思わない。
なぜなら、彼女は頭が悪いから。