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隣の席が空いている君

6月28日 23:11
中学2年の夏、私は日本に帰ってきた。3分の1が帰国子女と聞いて選んだ学校。緊張でいっぱいだったけれどみんな優しくて、あっという間にクラスの一員になれた。 夏休み明けの定期試験では学年8位に入れた。 「初めからここまでできるのはすごい」と先生たちが褒めてくれた。私は波に乗っていた。 雲行きが怪しくなる。 調子に乗ってる。ちょっと勉強できるからって。もといた国へ帰ればいいのに。見下してるよね。 英語が話せたって、外国で育ったからってサバサバしてるとは限らない。女は女だった。ねちねちした空気。 あんなに仲良くしてくれた子も、苦い目で私を見る。それでも私と一緒にいてくれる子はいた。みんな男子だったから、女子からの陰口に拍車をかけた。 私へのヘイトが落ち着いてきた頃、3日間のスキー合宿がやってきた。 私と行動を一緒にしたのは、彼氏がいるのに男に愛想を振りまいてるとかで、同じように仲間はずれにされていた子。全然そんなことないのに、どうして悪口言うんだろう。彼氏と別れていないのが彼女の一途さを証明しているはずなのに。(以下M実) 合宿2日目、彼を見た。M実とリフトを待っていた時、3人組の男子が横入りしてきた。同じスキーウェア。どうやらM実の知り合いらしい。誰かと競争しているみたいで、急いでいるようだった。呆れて先に行くよう促すM実。3人組のうち2人が、われ先にと二人乗りのチェアリフトに乗る。急かされながらも後ろからのんびりついて行く背の高いもう1人。そのあとに私とM実が乗る。M実はふたつ前のリフトに乗った2人に大きな声で文句を言っていた。ぼーっとしていた私にひとつ前の二人乗りリフトに広々と座る君が振り向いて申し訳なさそうに言う。「ごめん。ありがとう。」 そのあとM実の話で名前を知った。合宿から帰って、廊下ですれ違った時に挨拶するくらいの仲になった。 3年になる。新しいクラスでは、私に対する嫌がらせは殆どなくなった。M実とはクラスが離れてしまったけれど、彼女も恋人と同じクラスになれて嬉しそうだった。出席番号順の座席。二つ隣にいたのはリフト乗り場の君だった。 昼休みに席の近い女子でお昼を食べた。恋の話が大好きな子が、早々にクラスの男子を分析し出す。お弁当のグリンピースに苦戦していた私に話が振られる。「どんな人がタイプ?」 去年の苦い思い出から、私は私の心を誰にも教えたくなかった。異性のタイプなんて、みんなの話のタネにされるに決まってる。少し考えて箸を置く。「私は数学が苦手だから、数学が得意な人、かっこよく見えるかな」 恋バナ大好きY子、嬉しそうな顔をしてこちらを見る。「じゃあさ、あいつとかどう?R太、頭いいしお似合いだと思う!」 びっくりした。唐突にリフト乗り場の君の名前が出てきたから。Y子は私と彼に面識がないと思ってる。「それどの人?」と表情筋を操りながら訊く。 実際R太は勉強がよくできた。学年順位も私とほとんど同じで、順位が入れ替わることもあった。スキー合宿で初めて知ったと思っていたけれど、名前はもっと前から目についていたんだと気づく。 「好きになっちゃえばいいのに」 Y子が茶化して言う。Y子のその言葉でもう私は彼を気になりだす。でも去年のクラスメイトに話題を提供するようなことはしない。「でも私、彼と話したことないよ?」 体育祭が来る。私は一度も話したことがない人に、鉢巻を受け取って欲しいと言われた。断った。後から知ったけれど、彼はR太の親友だった。そんなこと把握してるはずない。私はこの学校に来て、まだ半年しか経っていないのだから。暫く去年のクラスメイトたちは私のいない2年4組の女子グルで盛り上がるだろう。でももういい。私の見えないところで私を餌にして楽しめばいい。 体育祭と同時並行で進んでいたのが修学旅行の準備。最初に班長を決めて、班長会議で班のメンバーを決めるシステムが採用された。あろうことか鉢巻の君が班長の一人だった。班長会議の結果は、私にとっては複雑なものになった。Y子と、R太と、鉢巻の君(以下N也)、そして私と面識のない男子2人の、男4女2。 修学旅行ではいろいろなことがあったけれど、私はますますR太のことを好きになるばかりで、彼も私を意識してくれていた(と思う)。中学生が使えるお金なんて限られていたけれど、Y子たちが絵馬を書いて遊んでいた時に、こっそり御守りをふたつ買って、ひとつを私にくれた時。明るく「ありがとう」と言ってもう一回参拝しようよと提案したけれど、緩んだ顔を見られたくなくて、君に目をつむって欲しかっただけだった。 夏祭りに誘ってくれたのは、R太と親同士が仲良いとか言う、S織という女の子だった。S織と盆踊りをした。後ろに声がした。R太とN也だった。恥ずかしくなって私は逃げた。不可解な私の行動に、S織からLINEが来る。 夏休みが終わる頃には、私とS織とY子はすっかり仲良くなっていた。2人はよくR太の話題を出した。私はまだ心を開けなかった。 お弁当も、S織がR太たちと一緒に食べようと提案して、毎日食べるようになった。S織経由で私は、R太と週末に複数名で遊ぶことが増えた。 高校からはR太は東京を離れてしまう。冬服に衣替えが済んだ頃、S織が教えてくれた。このままずっと、とはいかなかった。時間がないんだと気がつく。 中学最後の学年末考査。終わったら昼休みのメンツで遊園地に行こうという提案がY子から出る。これはR太とのお別れ会も兼ねていた。男3女3。みんなで放課後に服を選びに行って、チケットをコンビニで買った。 遊園地で私の隣にいたのは、いつもR太だった。ジェットコースターを怖がる私を見て、R太の友人の1人が彼に言う。「手繋いでやりなよ」 リフト乗り場のあの日から一年経っていた。私は初めてR太と手を繋いだ。ジェットコースターが怖かったかは覚えていない。どんなふうに手を繋いだかも。お土産に私はストラップを二つ買った。しばらくは、遊園地での写真ばかり見て、6人のLINEグループは動き続けた。 卒業式の日には、男子は学生服のボタンを、女子はセーラー服のスカーフを仲のいい異性や意中の異性に渡す伝統がある。私はR太から、第二ボタンでなくてもいいから記念にひとつ欲しいと思っていた。言い出せなくて時間が過ぎる。R太の友人や、N也。他の男子からもらうボタンが増えていく。N也が、「まだあいつからもらってないの?おーい、R太!」と背中を押してくれた。R太のボタンはあまりなかった。 ふと第二ボタンに目をやる。流石にもうないよね、と苦しくなる。でもR太はポケットに手をやり、「とっておいた」と心臓に一番近いボタンをくれた。私もスカーフを外す。今が一番幸せだった。 彼はもう東京にいない。高校に上がって一年ほど連絡を続けて、夏休みに東京で遊んだりはしたけれど、そのうち頻度が落ちる。クラスが変わったけれどY子とS織とは高校に入ってからも放課後よく遊んだ。二人は私の携帯からR太に電話を何度もかけて冷やかしたけれど、だんだんとそういったことも無くなった。なんだか決まりが悪くて、ずっとLINEは止まったまま。 Y子から、「お昼休みのメンツで同窓会をしよう」とLINE。コロナも落ち着いて、私たちも大学に慣れたから。6人のLINEが動き出す。R太からも久しぶりに連絡が来た。「お昼でも食べない?」 R太は今、東京にいる。私も、みんな東京にいる。 どうして今まで会わなかったんだろう。R太は東京の大学に通っているというのに。 ずっと好きだったというと嘘になるかもしれないけれど、恋を上書きすることはできなかった。今の彼氏も好きだけど、どんなデートもプレゼントも、中学の修学旅行と比べると色褪せる。君が頭にチラつくから、私はまだ、誰にも体を許していない。R太の方は、高校は男子校で、大学に入ってからも彼女を作っていないらしいとS織は言っていた。 本当はすぐにでも会いたいけれど、とびきり可愛くなった私を見て欲しいから、期末試験が終わるまで待ってと言った。 5年ぶりの昼休みまであと1ヶ月。浮気なんてと思っていた私の心が揺れる。
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OP
一部脚色していますがノンフィクションです。
B1June 28
Male
青山学院大学
素敵だけど、自分が彼氏さんだったら悲しいな
B2June 28
Female
中央大学
こういう話がノンフィクションで起こるのは青春ならでは🥺
B3June 28
Female
中央大学
R太も主さんと同じ気持ちだったらエモい。進展がありそうな予感しかしない
B4June 28
Male
立教大学
今彼の気持ちを思うと複雑だが、R太となにかあってほしいと思う気持ちもある
B5June 28
Male
慶應義塾大学
彼氏捨ててR太に乗り換えれば? 彼氏の貴重な時間奪うなよ
B6June 29
Female
立教大学
読みやすい文章でした! 残念ながらモテる子って本当に標的になりやすいですよね。
B7June 29
Male
青山学院大学
とりあえず、R太に想いを伝えるべき。 今彼のことは、その後に考えよう。
B8June 29