あのおばあさんが元気になりますように。
立教大学
物語風に語ろうと思う。
今日は5限が休講になった。
5限なんて眠いし終わったあと外は寒くなるし最悪だから、休講なんてこの上なく幸せだ。
4限で同じグループになった後輩といつもは出来ない無駄話をしてから、ハンドルもサドルも冷たい自転車にまたがり、5限後よりはやわらかい冷たさの風を感じながら下り坂を心地よいスピードで走り抜けていく。
学校から300メートルほど離れたところに、老人ホームがある。老人ホームがあるのは細い道で、いつもなら車なんて通ることもないから猛スピードで駆け抜けるのだが、今日は違った。
救急車が、道を塞いでいた。
ちょうど、ストレッチャーを持った救急隊員が乗り込んでいるところだった。
どんな人がストレッチャーに横たわっているのか気になった。
すごく具合が悪そうで、酸素マスクをつけていてビクとも動かないのだろうか。
また、痛みに悶えてのたうち回っているのだろうか。
それとも、血を吐いているのだろうか。
身近な人が救急搬送されたことすらない私は、色々な妄想をしてしまった。
いつもなら怖くなって目を伏せてしまうが、今日は5限がなくなったという興奮でなんでも出来る気がしていた。
私は勇気をだして、ストレッチャーの盛り上がっている部分に目を凝らした。
そこにはぱっちりと目を開けて、一見救急搬送されるとは思えないほど元気そうなおばあさんが乗っていた。
首を傾けて、車内をキョロキョロと見渡していた。
自転車にまたがったまま、一瞬時が止まったようだった。
少なくとも私にはそうは見えなかったが、このおばあさんは、救急搬送されるほどの容体なのだろう。
私はそのまま、救急車が去っていくのを呆然と見つめて、ふと我に返り再び自転車をこいだ。
そして今、あのおばあさんの顔を思い出す。
あのおばあさんは、生きているのだろうか。体調は回復したのだろうか。
とても気になってしまう。
どうかまだ、この世にいて欲しい。
全然見知らぬおばあさんだけど、元気になって欲しい。
またあの老人ホームに戻ってきて、窓から5限終わりの私を眺めてくれる日が来てくれることをひたすら祈っている。